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大阪地方裁判所 平成3年(ケ)649号 決定

債権者 株式会社 第三銀行

代表者代表取締役 北田榮作

債権者代理人弁護士 河内保

同上 小林裕明

債務者 ダイニチ興産株式会社

代表者代表取締役 大塚勲

前所有者(譲渡人) 大塚勲

〈ほか一名〉

所有者(第三取得者) 有限会社 村上商店

代表者代表取締役 村上隆司

主文

債権者の本件増価競売の申立を却下する。

債権者の予備的な通常の担保権実行の申立により、上記請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の抵当権に基づき、別紙物件目録記載の不動産について、競売手続を開始し、債権者のためにこれを差し押える。

理由

一  債権者の増価競売申立は、別紙物件目録記載の不動産の現所有者(第三取得者)有限会社村上商店の平成三年六月二一日付滌除通知書を前提とするものであるが、右滌除申出は違法である。

すなわち、右書面の内容は、別紙物件目録記載の宅地及び建物という複数の物件について、合計して金八〇〇〇万円を債権の順序に従って弁済する(尤も、取得代価は金八〇〇万円とも記載してあるが、一応取得代価とは別に八〇〇〇万円で滌除するものと解する)というものである。

しかしながら、共同担保の対象の物件であっても、担保権者は各物件について滌除に応じるか否かの選択の権利を有するのであるから、複数の物件について滌除権の行使をするためには、各物件について分割した金額を示すことが必要である。そうではなくて上記のような滌除の方法であってもよいとすれば、担保権者は個々の物件についての滌除権者の提供額を知ることができず、したがって提供額より十分の一以上高価な額を定めることもできないことになるからである(大審院昭和一〇・二・一八日決定・大審院判決全集昭和一一年三月二五日発行分一一四頁参照)。

2 右のような無効な滌除を前提としてなされる増価競売申立については、通常の担保権実行として扱うべきものとするのが通説であるが、滌除を違法だと考えながら、滌除を有効だとされた場合のことを慮って念の為に増価競売の手続を取るが、実際には現時点での担保権実行を望まない場合もあり得る。

したがって、申立人が通常の担保権実行としての手続進行を望む場合に限って、担保権実行としての開始決定をすべきものであり、これを望まない場合には増価競売申立を却下するのみで足りると考えられる。

本件においては、申立人は通常の担保権実行手続の進行を望んでいるので、増価競売申立を却下するとともに、黙示の予備的申立としての通常の担保権実行に基づく競売手続を開始することとする。

なお、通常の担保権実行とした場合には、抵当権実行通知が必要となるが、本件記録によれば、申立人からの増価競売請求の書面が平成三年七月一七日前記株式会社村上商店に対して発せられており、右書面は同月二二日に到達しているところ、この書面はその実質的内容として抵当権実行通知の趣旨を含むものであるから、それから一か月の期間内に再度有効な滌除の申出がない以上、申立人の予備的申立は有効であると解すべきである(これについて広島高裁岡山支部昭和六一年三月四日決定判タ六〇一―四八参照)。

(裁判官 富川照雄)

〈以下省略〉

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